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『コンビニ画 五十六景』プロジェクト
「コンビニ画 五十六景」は、印象派のタッチで描かれたコンビニの風景画で、吉岡雅哉(1981〜)が2013年から描く絵画シリーズです。シリーズとして定めた時点での総数が56点(2013〜2024年に制作)であったことから、五十六景と名付けられました。(作品は現在も増加中)
それぞれの景色がどの地点で描かれたのかは明らかになっておらず、各作品には毎回「みんなのコンビニ」という個別タイトルが付けられます。これは、どこにでもある景色のなかの、どこにでもあるコンビニを描いたということであり、モチーフの性質は異なりますが「富嶽三十六景」における「神奈川沖浪裏」のようなアプローチとなっています。
その姿が見えるところを富士見と呼ぶなど、古来より尊ばれた富士山に対し、寝巻姿で行っても構わないと思われる程に身近なコンビニ。しかし国外から見ればそのコンビニこそが富士山と並ぶ日本の代表的な景観なのかもしれず、そのことに日本が無自覚であることは、浮世絵が海外で広まる以前の状況と重なります。
「コンビニ画 五十六景」プロジェクトは、コンビニは絵になるという作家の直感から断続的に描かれた作品群を、今改めてシリーズ作品として提示し、内から外へ、コンビニ画が広く流通する世界を目指します。
『コンビニ画五十六景』について
文:田森葉一(みんなのギャラリー)
「コンビニ画 五十六景」は、作家・吉岡雅哉が2013年から継続的に描いている風景画シリーズです。 地方に点在する、どこかで見たことがあるようなコンビニを印象派のタッチで描いた本作は、まさに印象派絵画の特徴である光や空気、時間の気配をとらえながら、印象派の時代には存在しなかった“コンビニ”という現代的な風景を描いています。 このシリーズの多くが描かれたのは2010年代でした。長期的な停滞感の中、日本が大小さまざまな課題に直面し、変化を迫られていた、2010年代とはそんな時期だったのではないか――と、今振り返って思いますが、 そんな時代にあっても、コンビニは変わらない日常の象徴として全国津々浦々に展開し、いつでもどこでも、私たちのよく知る姿で迎えてくれていました。 2016年には、村田沙耶香氏による小説『コンビニ人間』が発表され、国内外で大きな反響を呼びました。 『コンビニ人間』が「コンビニという制度の中で生きる人間」を描いていたとすれば、『コンビニ画 五十六景』はその制度の“外側”から、風景としてその光景を見つめています。 文学と絵画という異なる領域で、同じ時代を異なる角度から捉えようとする営みが、この二つの作品には通っているように思います。 そんなコンビニですが、全国の店舗数の統計を見ると、2019年にピークを迎えたあと、横ばいの状態が続いています。 人口減少や地方の過疎化、人手不足、物流の困難、資材価格の高騰、物価上昇など、さまざまな社会的変化が、これまで「変わらない」と思われてきた日常の風景に、ゆるやかではありながらも確かな変化をもたらしています。 実際、『コンビニ画 五十六景』には、すでに姿を消したブランド――たとえばサークルK・サンクスなども描かれています。 その時代に確かに存在していた「どこにでもある風景」が、時間の経過とともに、ある時代の姿を記録する「歴史画」のような性格を帯びはじめているのです。 シリーズタイトルの「コンビニ画 五十六景」は、葛飾北斎の《富嶽三十六景》が想起されるかと思います。 日本で暮らしていると、なかなかそうは思えないかもしれませんが、現代において富士山に代わる“風景的アイコン”があるとすれば、それはコンビニなのかもしれません。 かつて浮世絵が都市や庶民の暮らしを描いたように、吉岡の作品もまた、大衆的な風景を描いています。 そしてその風景を印象派のタッチで描くということは、『コンビニ画 五十六景』が、浮世絵から印象派へと続く系譜にあることを示しているようにも感じられます。 風景の連作という点で想起されるのが、アメリカのアーティスト、エド・ルシェが1963年に発表した写真集『26のガソリンスタンド』です。 これはアメリカ西部のガソリンスタンドを淡々と記録した作品ですが、大衆的な風景に着目した点で『コンビニ画 五十六景』と通じるものがあります。 とくに、ルシェが撮影した夜のガソリンスタンドの写真を見ると、吉岡の描く夜のコンビニと驚くほど似たイメージであることに気づかされます。 一方はアメリカのロードサイド、もう一方は日本の郊外にある風景ですが、それぞれのローカルな景色のなかに、どこか普遍的な感覚が宿っているように思えます。 変わり続ける世界の中で、私たちが見過ごしてきた風景にあらためてまなざしを向けてみること。 そして、その風景を語り継いでいくこと。 『コンビニ画 五十六景』の静かな語りを、これからもっと広い世界へ届けていきたいと思います。
● イベント
■ 吉岡雅哉個展『コンビニ画五十六景 with 紋℃コレクション』
コンビニ画シリーズに加え、AV監督として数多くの作品を手がけた紋℃氏所蔵の西海岸シリーズ6点が本展に特別出展します。
2025年11月20日(木) - 12月14日(日)
12:00 - 20:00 月曜休廊
■『コンビニ画 五十六景』
プロジェクトのキックオフとして、5月20日から、東京上野の「みんなのギャラリー」でシリーズ作品を展示致します。この機会にぜひ、コンビニ画の魅力をお楽しみください。
2025年5月20日(火) - 6月1日(日)
12:00 - 20:00 月曜休廊


● 作品一覧 年代:2013-2025 / 各サイズ:333 x 242 mm / キャンバスに油彩

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