Exit's Reports 07

 

今回からは、また平面の作品をご紹介します。

 

この作品を制作した頃は、どのように将来の作品を構築するかを考えあぐねていました。

というのも、私は東京藝術大学の日本画科に在籍していたのですがそこには大きくわけて三つの派閥が存在しています。

 

第二回で日本画が形成された経緯を紹介しましたが、日本画は江戸時代迄の絵画とはゆるやかな断絶があり明治以降、特に戦後に発展していきました。

その流れの中で、敗戦の傷をいやすような作品が多く制作されます。

藝大学長を勤められた故平山郁夫先生はその筆頭に位置していました。

また、彼の所属していた日本美術院(再興院展)は日本画の権威的な象徴として美術業界に君臨していました。

http://nihonbijutsuin.or.jp/

 

たいして、そこから現代日本画の創造を標榜した創画会(1948)が発足されました。

http://www.sogakai.or.jp/

 

現在の藝大日本画の派閥を構成しているのはこの二つの公募団体に所属されている教授陣です。そして、最後の一つは無所属の作家です。

 

藝大の日本画においては、どの派閥に入るかが将来の画業に大きく影響していきます。

その意味では、業界のサバイブの方法を提示してくれている希有な団体でもあります。

 

地方出身の私などは、端から派閥抗争には興味はありませんでしたが日本画科に所属している以上は果たすべき義務がありました。

 

そこで到達したのが古画に学ぶ事でした。

源氏物語や絵因果経、狩野派の絵師、琳派、北斎、蕭白、若冲、暁斎、はては芳崖などの作品模写を通して作品の核を学んでいきました。

 

今回の作品は若冲の動植綵絵に学び描いたものです。

 

次回以降、古画に学びどのように作品を発展させていったのかをご紹介したいと思います。

 

 

作品キャプション

”鮟鱇” H40.9cm×W40.9cm、綿布・楮紙・膠・墨・岩絵の具、2009、個人蔵

 

Exit's Reports 08

 

今回は、花鳥画や歴史画からの飛躍でうまれました作品を紹介します。

 

まず、日本画にはいくつかの決まった主題が存在し意識するしないに関わらず、ほとんどがそのバリエーションで制作されています。

 

今回いくつかある主題のうちの花鳥画と歴史画についてご説明します。

 

花鳥画は中国で体系化され日本にも伝来した画題で主に草木に鳥や蟲などの小動物を描いた作品です。日本では鎌倉時代頃から唐絵の影響でひろまり後に、狩野派などの作品にも取り入れられた事で日本絵画における主要な画題の一つとなりました。また、花鳥画は江戸時代には俳諧か狂歌とともに浮世絵に描かれ、文芸と結びついた表現もうまれます。

 

そして、歴史画は洋の東西を問わず歴史上の事件や神話、宗教を題材にした作品をさします。特に江戸時代の日本では鎖国政策のうえに諸藩が閉鎖的な社会を形成していたため事件を扱った浮世絵は情報を伝播させるのに重要な役割を果たしていました。

 

明治以降、日本画が大成した後もこれらの画題は脈々描かれ続けました。

 

今回の作品は、ガルーダ(迦楼羅)というインド神話に登場しナーガ(龍や蛇のたぐい)を退治する神鳥を題材にしています。これは歴史画にならった題材です。そして、そのガルーダを実際にいるヘビクイワシの姿をかりて描いています。ここでは花鳥画を意識しシンプルな背景に描くことに注視し制作しました。

 

次回も、このように日本画の手法で描いた作品をご紹介したいと思います。

 

 

作品キャプション

”迦楼羅” H90cmxW90cm、綿布・楮紙・膠・墨・岩絵の具、2009、個人蔵

Exit's Reports 09

 

今回は、16世紀の日本の医学書『針聞書』からの飛躍でうまれました作品を紹介します。

 

芸術の大きなテーマの一つに「死」があります。私は「生死」を倫理的な観念からではなく

物質的な見地から興味をもちました。学生時代には解剖学を受講し、実際に東大の比較解剖研究室に潜り込んで動物の解体をしていた時期もあります。

 

「針聞書」に出会ったのも、解剖を学んでいた時です。

 

「針聞書」(はりききがき)は永禄11年(1568年)に摂津の国の元行という人物によって書かれた東洋医学書で現在は九州国立博物館の所蔵品です。

 

針の基本的な打ち方+病気別の針の打ち方などを記した聞書、灸や針を体のどこに打つか示した図、体の中にいる蟲の図とその治療法(針灸や漢方薬)、臓器や体内の解剖図の4部構成になっています。

 

私が注目したのは、体の中にいる蟲の図です。中世、理由のわからなかった様々な病気の症状や原因を腹の中に潜む蟲の仕業とし、その特徴と対処法を図示しているのが本書です。

 

当時の人々の病気に対する想像力が遺憾なく発揮されていてまさにアイデアの宝庫です。

 

題材になった「蟯虫」(ぎょうちゅう)というのは庚申の夜に宿主の体からはい出し閻魔様にその人の悪事を告げる蟲とされ、対処法は庚申の夜に夜更かしをして蟯虫が告げ口にいかないように見張る事だったように記憶しています。

庚申(かのえさる、こうしん)は干支の組み合わせの一つで庚申の年、または日には人の心が冷酷になるとされ、禁忌行事を中心とする信仰として中国から輸入された概念です。

始めは眠らずに謹慎して過ごすのが習わしでしたが次第に酒席へと変化していったようです。

 

「針聞書」の全ての蟲を描ききろうと始めたこのシリーズは、貫徹しませんでしたが私の中では生死に関わる題材を意識的に扱い始めた旗手的な作品です。

 

次回は、今回のものと同時期に手がけた他の作品をご紹介したいと思います。

 

 

作品キャプション

 

”ハラの蟲・蟯虫 ー針聞書よりー” H40.9cm×W40.9cm、麻布・楮紙・膠・墨・岩絵の具・漆、2010、個人蔵

Exit's Reports 10

 

今回は、私の作品の根幹に関わるテーマを少し紹介致します。

 

前回もお話しましたが、芸術の大きなテーマの一つに「死」があります。「死」は誰にとっても避けられない事象です。私は、芸術作品を作るという事は永遠に生きたいという事への

欲求の現れなのではないかと思っています。

 

しかし、日本人ならだれでも知っている仏教の「諸行無常」の概念にてらせばあらゆる物象は流転するダイナミズムの中にあって永遠に残るものはありません。また、日本は木に支えられた文化なので解体と再生は一体のものです。

それは式年遷宮にも現れています。

 

ヨーロッパの文化は石の建造物(教会やお城)が基本にあるので堅固で半永久的なものを権威の象徴として残したい欲求があります。そんな西洋的な思想の上に成り立っているARTは、歴史の証人として保存されていくべきだという強固な意志によって動かされています。(仮に刹那的な作品が現れたとしても、そのアーカイブは残されます。)

 

例えば同じ島国であっても日本の文化財にかける保存修復予算が81億5,000万円(2014年)に対しイギリスでは約500億円です。前年度のGDPにおける保存修理予算対GDP比率においては日本0.0017%、イギリス0.018%とその差が明らかです。

人口比を考えれば日本は予算1,000億円にするとイギリスと同等程度になるそうです。

 

話はそれましたが、日本人である私がartをやるという時には「諸行無常」と「永遠に生きたい」という二つの理念がぶつかってしまうのです。

 

そこで生まれたのが「繰り返す事象」というコンセプトを取り入れる試みでした。

 

少し分かりにくいですが、生と死、潮の満ち引き、宇宙の回転、物質の輪廻等あらゆるものを「永遠に繰り返されている事象」とみなしてその断片を切り取って、アート作品として固着させる事を始めました。その象徴となるのが渦巻き文様です。

 

今回の作品は福岡のとある浜にうち上げられたリュウグウノツカイという魚の標本を見た際に着想を得て制作しました。

 

もちろん、脊椎が体幹を支えている魚ですからこのように体が渦巻き状に曲がる事はありません。しかし、この魚がうまれてから標本にされるまでの課程を考えていると私の考えている事に合致していきこの図像がうまれました。

 

次回は、輪廻し繰り返す事象に取り組む事を決めた後に日本画科に在籍するものとして制作した作品をご紹介したいと思います。

 

 

作品キャプション

”竜宮ノ使イ” H120cm×W120cm、麻布・楮紙・膠・墨・岩絵の具・漆、2010、個人蔵

Exit's Reports 11

 

今回は、鮪を描いた作品に関してです。

 

東京芸大の日本画科に在籍していると

「このような絵を描くべきだ」

「このような絵は描くべきでない」

というような無言のプレッシャーがあります。

教授、准教授、助手を交えて作品の講評会が行われるのですが、面白いのは教授は決して口では強要しないという点です。教授の態度と助手、生徒間の空気の読み合いでこれらのプレッシャーが醸造されます。

 

その空気感にすんなりなじんで自分が描きたいモチーフと日本画家として要求されているモチーフを同期させる事の出来る人も入れば、それが出来ずに去っていくものいます。

 

逆にいえば、一定以上の規範に従っていれば大きくは外す事はありません。

こんな事をいうと、だいぶ叩かれそうですがある種、傾向と対策に従って合議制に基づいた民主的な絵画集団だとも言えるかもしれません。

 

日本美術を育てて来た狩野派などは徒弟制度に基づいた厳格な上下関係の中で

突出した才能が生まれましたが、今の合議制に基づいた日本画の公募団体が今の状況を打破するには圧倒的な力をもつカリスマの出現を待つしかないのでしょうか。

 

今回の絵はそんな空気の中、自分の目指す絵画と日本画に求められる絵画との萃点で

生まれた作品です。

 

これは千葉の海遊館の大きな水槽にいる鮪を写生して描いたもので、若冲の動植綵絵からも着想を得ています。

 

また鮪が、繰り返し同じ所を泳ぎ回る姿が輪廻に閉じ込められて解脱できない様を体現しているようでこの作品を描きました。

 

次回は、その課程で取り組んだ大作をご紹介致します。

 

 

作品キャプション

”群鮪図” H130.3cm×W162.1cm、麻布・楮紙・膠・墨・岩絵の具・漆、2010、個人蔵

Exit's Reports 12

 

今回は、海の生物を扱った作品の集大成となる作品を紹介します。

 

私は生命や生態系の輪廻を題材に描いていたころ鯨骨生物群という生態系が深海で育まれている事を知りました。

 

この作品のタイトルは「食宴。堂廻目眩之真景図」といい

「しょくえん。どぐらまぐらのしんけいず」と読みます。

これは生命の循環する様を描いたものです。

 

真ん中に見える骨はクジラのものです。

その死骸を食べに数多の生物があつまり構成されるのが鯨骨生物群です。そして そこに集まる生物を食べに、また新たに生物が集まるのです。そして、それらも やがては他の生物の糧になります。これが生命の環です。

 

この地球上にある限られた資源はそうやって循環し生命の進化をもたらしました。

 

一は全であるように、全もまた一を構成する要素です。私たち人間はその事を忘れ、蹂躙していきます。この作品はそれへ対する問いか けです。

 

わたしが描いたものに貴賤の区別はありません。

全体から構成される円(環)を見つけて下さい。

 

この後、円環する事象に言及する作品に取り組む事になるのですが次回はそこに至る迄に描いた作品をご紹介致します。

 

 

Exit’s reports、次回もお楽しみに!

 

 

作品キャプション

”食宴。堂廻目眩之真景図” H227.3cm×W181.8cm、麻布・和紙・白亜・膠・顏彩・墨・漆、2010、個人蔵

出口雄樹

Yuki IDEGUCHI

http://ideguchiyuki.com/

 

1986   福岡県生まれ、ニューヨーク在住

2013   東京芸術大学 絵画科大学院修士課程日本画専攻修了

​HOME  /  ABOUT  /  EXHIBITION  /  CONTACT  /  MAGAZINE  /  ART BOOK   /   FEATURE

みんなのギャラリー |〒110-0015 東京都台東区東上野4-14-3 2F

Minnano Gallery|2F 4-14-3 Higashi Ueno, Taito-ku, Tokyo, 110-0015, Japan

Tel +81(0)3-6268-9658

ニュースレター登録  | Newsletter Registration 

みんなのギャラリーの展示情報、アーティストに関するニュースなどをお届けします。

We send you an email about exhibition information and news about artists, etc.

©みんなのギャラリー / Minnano Gallery

  • Instagramの - 灰色の円
  • Facebook - Grey Circle
  • Twitter - Grey Circle